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パリ事務所(クレア・パリ=CLAIR PARIS)は、日本の地方団体のフランスにおける共同窓口として、1990年10月に設置されました。

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オランド流「地方分権改革」に向けた大統領声明と今後

フランソワ・オランド大統領は、今月5日、上院の「地方の民主化に係る“三部会(États généraux中世フランスの全国三部会から命名)”全体会合」に出席し、地方分権改革に関する今後の報告制について言明しました。大統領選を通じて、前サルコジ政権下でとられた措置の撤回を含む抜本的見直しは訴えられてきたものの、その具体的内容については明らかでない部分も多かったため、今回の大統領発言は注目に値すると思います。

政府は当初、9月末に地方分権にかかる方針を明らかにするとして来ましたが、より丁寧に地方の意見を吸い上げるべく1ヶ月程度延期のうえ検討を重ねているところであり、議論は佳境を迎えつつあります。
同時期(10月3日~5日)、フランス南部のビアリッツにおいてはコミューン間広域行政組織協議会(AdCF)総会が開催され、私も出席の機会を得たのですが、そこにはマリリーズ・ルブランシュ分権改革大臣、セシル・デュフロ国土均衡大臣のほか、クロード・バルトロンヌ国民議会議長、ディディエ・ギョーム上院副議長等々が揃って遠路駆けつけるという熱の入れようでありました。

今回のオランド大統領の発言と、ルブランシュ分権大臣の言葉などを組み合わせると、オランド政権の目指す分権の姿が朧気ながら見えてくるのですが、その内容は、日本における分権改革と期せずして平仄が一致するところが多いのも興味深い点です。
以下、そのポイントを紹介させて頂きます。


1 「州・県兼任議員」の廃止
前サルコジ政権時代に、コミューン・県・州という三層制の簡素化の観点から、新たに「地域議員(conseiller territorial)」という身分を創設し、県議会と州議会の議員をこの「地域議員」という言わば「州・県兼任の議員」に置き換えるという法案が提出され、既に2010年12月に公布されています。同法においては、第1回の地域議員選挙は2014年3月が予定されていました。
オランド大統領はその公約において、地方の反対の多かった、この「地域議員」の廃止を訴えてきており、今回改めてその意志を明らかにしています。すなわち、県議会議員・州議会議員別々の独立した選挙へと戻すというものですが、大統領からは加えて、「両選挙は同日に、異なる投票方法により執行する」との説明がなされています。
加えて、元々2014年にはコミューン議会、欧州議会、上院議会議員選挙と多数の投票が予定されていることから、国民及び関係議会の混乱を避けるためにも、県議会・州議会の選挙は1年間期日を延期し2015年に実施するよう政府に要請する、としています。


2 コミューン間広域行政組織の議員選挙の改革
コミューン共同体(communautés de communes)や都市圏共同体(communautés d’agglomération)、大都市共同体(communautés urbaines)などのコミューン間広域行政組織は、小規模で財政的基盤も脆弱なコミューンの受け皿としてますますその重要性を増しており、独自の課税権を持ち、多額の予算を採択・執行しています。そうした中、民主的統制の観点から、コミューン間広域行政組織の議員を、現在のようにコミューン議会内での互選にかからしめるのではなく、直接選挙により選出すべきとの議論がかねてより盛んになされてきたところであり、2010年12月の改正法においても、その原則は既に盛り込まれているところですが、詳細設計は今後に委ねられています。ビアリッツのAdCF総会でも多くの首長から意見が出されていました。ルブランシュ分権大臣は、「それはマニュエル・ヴァルス内務大臣の仕事」と冗談めかしてかわしていましたが。
今回、オランド大統領は改めて、コミューン間広域行政組織の議員は、コミューン議会議員選挙と同時に執行される直接・普通選挙により選出されるべき、と述べると共に、具体的選挙方法については「コミューン間広域行政組織とコミューンの双方について別々に投票することなく、しかし一方で選挙民が自らの投票したコミューン議会議員(の名簿)のうち誰がコミューン間広域行政組織の議員となるのかが予め分かるようなシステム(système de fléchage)が望ましい」とコメントしています。


3 2013年初頭の分権改革法案提出と「協議の場」
大統領は、来年初頭には地方分権に係る新法案を、地方代表の性格を持つ上院先議で提出すると言明。その目玉の一つが「地域に関するハイレベル協議の場(Haut conseil des territoires)」の創設であるとしています。先にも述べたようにオランド政権はサルコジ時代に「多層制」の弊害の打開策として導入された州・県兼任の「地域議員」制度を、執行を見ずして廃止することとしていますが、二重行政等といった現行制度への批判に現政権としてどう応えるのかは明らかにされて来ませんでした。その答の一つがこの「協議の場」であり、また後に述べる「権限配分の明確化」ということになります。
この協議の場については、AdCF総会でルブランシュ分権大臣がより踏み込んで述べていましたが、政府、上院、地方自治体の代表(全仏州連合会、全仏県連合会、全仏市長会など各種団体の代表)などから構成され、地方自治体に影響を与える全ての法案は予めこの協議の場にかけられ、討議、交渉、評価が行われることが想定されています。


4 雇用、人材育成、中小企業振興策を「州」に集約
同分権改革法案においては、雇用、人材育成、中小企業振興策を州に委ねられることが予定されていることが明らかにされました。オランド大統領は、国及び自治体間の権限の明確化のため、ある分野に属する権限は、国・州・県・コミューンのいずれかの階層に丸ごと帰属させる「権限ブロック(bloc de compétences)」のロジックを徹底させたいとし、その具体案の一つとして「国は、雇用・人材・中小企業という3つの分野の政策全体の舵取りを州に委ねる」としています。


5 自治体の「実験的取組」の促進
2003年の憲法改正により、地方自治体は「実験的取組」に関する権限を憲法上も付与されたところでありますが、今般の分権改革法案にはその拡大・柔軟化を盛り込み、新たな施策に一層積極的に挑戦できるような環境づくりをしたいとしています。オランド大統領は「フランス共和国は一つ(une)であるが、一様(uniforme)ではない」と強調し、地方自治体の、地域に根ざした多様な施策への挑戦を鼓舞しています。


6 国の基準の削減・簡素化
「現在40万の法的な基準が置かれているが、この数字はいかに多くの束縛が地方自治体にのしかかり、地方分権を阻んできたかを物語るものである。私たちは地方自治体のコスト、あるいはこれらの手続きに要する時間に鑑みて、この状況を容認することは断じてできない。」
オランド大統領はこのように述べた上で、地方自治体の運営を拘束する国の諸基準の削減・簡素化に向けて次のような「新手法」を提案しています。

① いかなる基準も「基準評価委員会(Commission d’évaluation des normes)」の賛同を得ずして決定されることは無いものとする。
② 法定の期限までに必要性について確認されなかった全ての基準は直ちに無効とする。
③ 新たに基準を創設しようとする場合、他の基準の廃止とセットでなければ認められない。


7 国・地方を挙げた財政再建への「努力」
オランド大統領は、財政再建は政府の最優先課題であるとし、地方自治体を含む全ての主体に「努力」を呼びかけています。ただ、その達成手法など具体的内容については「開かれた丁寧な議論が必要」と述べるに留めています。


8 2013年春に「兼職禁止法」提出
フランスの制度の特色の一つに、各種公選職の兼職があります。現行制度においては、州・県及び人口3500以上のコミューンの議員職いずれか一つと国会議員職一つが兼任可能となっており、現に国会議員とメール(市町村長)、県や州の議長を兼ねる者は非常に多いのが現状です。
この兼職についてオランド大統領はかねてより批判的スタンスを取って来ており、閣僚は(法律上義務ではありませんが)地方の首長職を離れると共に、他の与党議員にも兼職解消を呼びかけています。しかし、与党社会党にも依然として兼職をしている議員が多数おり、その具体策はセンシティブな課題となっています。なお、野党UMPは旗幟鮮明にせず当面様子見を決め込んでいる状況です。

そんな中、大統領の諮問を受けた「公職・公選職に係るリオネル・ジョスパン委員会」が11月初めに答申を大統領に提出する予定となっており、オランド大統領は、この答申を受けて国・地方の公選職にある者や政党との協議を開始し、2013年春の法案提出を目指す旨を明らかにしました。


以上が、10月5日のオランド大統領の声明の主なポイントでありますが、ご覧の通り、いずれも国・地方の対立を演出したサルコジ改革への訣別を意識し、国・地方の協議・協調を強く打ち出した内容となっています。
AdCF総会においては、ルブランシュ分権大臣が「国の赤字は地方自治体の責任ではない。」「もし仮に地方自治体の歳出を過度に削減することになれば、この国の経済成長は危険にさらされることになる。」と述べ、併せて、「一部のマスコミが、根拠無く地方自治体の歳出を批判し、誤った情報を国民に与えている」として厳しい口調で非難するとともに、「コミューンの経常経費が増大しているのは、公共政策の必要性に応じ新たなサービスを推進しているからに他ならない」と理解を示しました。さらに、「司令塔としての国、明確化された権限を持って活動力に満ち満ちた地方自治体」という二つの責任主体間の協議の強化の重要性について特に力を込めて訴えていました。
昨年もこの会議に参加したクレアパリ事務所のスタッフは、あまりの会場の雰囲気の変わりように驚きを隠せないといった様子でした。
そして、その協議・協調の具体的方策の一つが先に述べた「Haut Conseil des territoires ハイレベル協議の場」というわけです。

また、同大臣は、地方長官préfetや地方自治体の執行部の参加による「州レベルでの協議の場」についても言及していました。そこでは各地域の個性を反映しつつ、多様な主体間で役割分担などを明確にした「ガバナンス契約」が結ばれることなどが想定されています。
オランド流の地方分権改革の今後の展開を見守りたいと思います。

(パリ事務所長 黒瀬敏文)