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パリ事務所(クレア・パリ=CLAIR PARIS)は、日本の地方団体のフランスにおける共同窓口として、1990年10月に設置されました。

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剣道を通じた国際交流

○得意分野でコミュニケーションを
「赴任先であるフランスの方々と打ち解け、仲良くなるにはどうしたらよいだろうか?」ということを思案していた時に、ちょうどフランスで剣道をしている日本人の方の記事を読む機会に恵まれました。記事の内容は、結婚を機にフランスに渡り、しばらく離れていた剣道を再開することによって、フランスでの生活を充実させているというものでした。私もここ数年剣道から離れていましたが、この記事を読んで「これだ!」と思い、赴任に必要な荷物のリストに剣道の防具を加えることにしました。そして、2012年6月に初めてパリにあるブドー・オンズ(BudoXI)という道場の稽古を見学させていただき、ここから私の剣道生活がパリにて再開することになったのです。

○パリの道場で、フランス人との稽古
初めてブドー・オンズの稽古を見学した時のことを今でもよく覚えています。指導者であるギ・ロラン師範のアドバイスには、「気剣体一致」[2]、「残心」[3]など、剣道をやっている者にとっては聞き覚えのある用語が使われていました。また、日本の道場さながらに基本に忠実で、気合いも充実していました。そして、稽古が終わると各々稽古をした先生や相手と礼を交わしており、剣道(武道)でとても重要な「礼で始まり、礼で終わる」ということもきちんと実践されていました。フランスにおける剣道のレベルの高さに大変感銘を受けた次第です。稽古に通うごとに、道場での知り合いが増えていきました。彼らの中には、日本の有名な道場や大学で稽古をした方もおり、本格的に剣道を取り組んでいる姿勢に感心しました。また、フランス人剣士には「日本通」が非常に多いこともわかりました。例えば、剣道以外にも武道を研究している方や、日本文化に造詣が深い方もおり、また、小さい頃に日本の漫画に影響されて剣道を始めたという方もいました。このように、少なからず彼らには「日本」のイメージがあり、日本文化に対する興味や理解があるのです。

○フランスの剣道事情
ここで、フランスの剣道事情について簡単に触れておこうと思います。フランスでは、やはり柔道が大変人気(サッカー、テニスに次ぐ競技者人口)なのですが、剣道も近年競技者が増えてきているようです。フランスの公認剣道統括団体はフランス剣道連盟[4]です。フランス剣道連盟は、柔道を主とするフランス柔道・柔術・剣道及び関連武道連盟[5]の内部組織です。フランス剣道連盟は、剣道以外にも、居合道、スポーツチャンバラ、なぎなた、杖道、弓道の普及促進に取り組んでいます。フランス剣道連盟は国際剣道連盟の加盟団体で、全日本剣道連盟と密接な交流があり、1975年より毎年日本からフランスへ指導者を招聘しています。また、国際剣道連盟に加盟しているヨーロッパ各国剣連を統括する、ヨーロッパ剣道連盟[6]という組織があります。ヨーロッパ剣道連盟はヨーロッパ各国剣連間の意思疎通を図り、ヨーロッパ全体での剣道振興を目的としています。フランスの剣道人口はおおよそ8千人程で、パリで大会が行われるなど、盛んになりつつあります。また、週末になるとスタージュと言って、全日本剣道連盟から派遣された先生の稽古が企画されることがあり、本格的に剣道に取り組める環境があります。今年行われたJapanExpo2012[7]においても、剣道の講習会や稽古が実施されるなど、その知名度は確実に上昇していると思われます。

○日本を離れて日本を学ぶ
これは剣道に限ったことではないのですが、自分自身きちんとした知識を持ち合わせていないと、なかなか相手に物事やその本質を伝えることができません。特に、フランスは、近年の日本食ブームやアニメ人気も影響しているためか、日本文化への関心が高く、それらについて専門的に研究をしている方も大勢います。彼らと話をすると、逆に彼らから日本のことを教えてもらうということもある程です。また、仕事でフランスの地方自治体を訪問するケースもあり、先方の取り組む制度をヒアリングする際には、必ずと言ってよい程同じく日本の制度を聞かれます。相手の国を知るには、まずは自国を知ることがいかに大切であるかということを、公私共々日々痛感しています。

○郷に入らば
他国の方とコミュニケーションをとるにはやはり語学力が大切です。しかし、それだけではなく、フランスにも日本文化をはじめ、多種多様な趣味を持った人々がいますので、得意分野を交流の機会とするのも1つの方法であると感じます。帰任まで限られた期間ではありますが、剣道と語学の稽古を重ねる中で、素晴らしいフランス人の仲間たちとの出会いを大切にしていきたいと思います。また、姉妹都市交流事業においても、日本文化や伝統をテーマに交流する自治体もあり、今後の施策に生かすためにも、フランスの方々の日本文化に対するニーズを引き続き探っていこうと思います。

パリ事務所 所長補佐 原田 知也(群馬県富岡市派遣)



[1]パリ11区に道場を構える剣道クラブで、生徒数は約400人。1973年に、柔道、合気道、ボックス・フランセーズ(サバット)の道場として設立され、剣道部は1973年末に好村兼一教士とギ・ロラン師範によって設立された。

[2]剣道においては、気(意志、心の作用)、剣(竹刀の働く作用)、体(体勢、身体の力)が一致して初めて有効な技となるという意味がある。

[3]剣道においては、技を終えた後も気持ちを切らしてしまうのではなく、余韻を残すという意味がある。

[4]フランス語名はComité National du Kendo(CNK)HP http://www.cnkendo-da.com/

[5] フランス語名はLa Fédération Française de Judo-Jujitsu Kendo et Disciplines Associées
1946年柔道・柔術フランス連盟(FFJJJ)として発足し、約56万人(2005年現在)の会員数は、フランス国内3位のスポーツ連盟である。HP http://www.ffjudo.com/ffj

[6]英語名はThe European Kendo Federation (EKF) HP http://www.ekf-eu.com/

[7] マンガ・アニメ・ゲームを中心とした日本のポップカルチャーと、書道や武道、折り紙など日本の伝統文化を合せた日本文化を紹介するイベント。2012年は21万人もの来場者を記録した。

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