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パリ事務所(クレア・パリ=CLAIR PARIS)は、日本の地方団体のフランスにおける共同窓口として、1990年10月に設置されました。

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オランド分権改革を追う(12) ~国民議会第一読会での新たな展開~

7月23日、「地方行政の刷新とメトロポールの確立に関する法律案」は国民議会の審議を終え、修正のうえ可決された。これで上院、国民議会双方の第一読会が終わったことになるが、リヨン・メトロポールをはじめ、両院の一致により採択が確定した改革もあれば、ここに来て、選挙制度を巡る新提案など重要な修正案も提出され(これらは第二読会に回される)、議論は白熱の度を増している。
今回はその主要ポイントを紹介する。

1 「メトロポール議会に直接普通選挙導入」を政府が追加修正

審議中のメトロポール(3つの特例的地位のメトロポールと一般的なメトロポールの双方が対象)について、2020年の議会選挙から直接普通選挙を導入するという修正案が、法制委員会審議後の国民議会本会議に急遽政府から提出された。

修正案には、「メトロポール議会の議員は、直接普通選挙により選ばれるグループとコミューンの代表者のグループから構成され、前者の数は後者の数と同数以上でなければならない」とのみ記され、具体の方法は別に定めることとされている。

法制委員会審議後の提出だったため同委員会での審議対象とならなかったという手続き面での不満に加え、メトロポールへの直接普通選挙の導入がコミューンの弱体化、究極的にはコミューンの消滅をも招きかねないとの危惧感から、UMPや左派戦線など野党を中心に議場はにわかに激しい議論に包まれた。
なお修正案は、法制委員会のレポーターを務めているオリヴィエ・デュソプト氏(社会党、委員会審議にはかけられなかったので個人的意見として弁明)や他の社会党議員団、さらにはエコロジスト(「新たな自治体の階層が住民との距離を生み、民主主義が後退し、ひいては官僚主義の台頭を許す」としてかねてより直接普通選挙を主張)の賛成をバックに、結果として賛成61・反対45で可決された。

ちなみに、既にコミューン間広域行政組織の議会選挙については、「兼用選挙方式fléchage」(コミューン議会議員への投票を同時に広域行政組織の議会議員の選挙に活用する方法)ではあるが、直接普通選挙が導入されることが2010年12月のサルコジ法で可決済みである(そのため今回の修正案が出されなくても兼用選挙方式による直接普通選挙は予定されていた。エロー首相インタビュー(クレアパリブログ(10))参照)。メトロポールは広域行政組織の中でもより統合の進んだ形態であり、より大きな権限が委ねられることを考えると、(兼用選挙方式でない)直接普通選挙のメトロポールへの導入は考えられてしかるべき、というのが賛成派の共通の認識と思われる。

地方関係団体のうち、市町村長(メール)の集まりである全仏メール会AMFのジャック・ペリサール会長(UMP、国民議会議員、ロン・ル・ソニエ市長)は、「コミューン、メールの死を意味する。ひいては我が国の民主主義の基盤を害するものだ」として強く反対。(なお、コミューンと広域行政組織との兼用選挙方式については、2010年サルコジ法の可決の際に、直接選挙の導入により広域行政組織の民主的正統性が高まる、広域行政組織とコミューン議会議員が別々の者ではなく兼職する仕組みもAMFの要望どおり、としてAMFは賛成の立場を表明している(地方自治764号p.130)。)
反対にフランス大都市メール会AMGVFのミシェル・デスト会長(社会党、国民議会議員、グルノーブル市長)とフランス大都市共同体協会ACUFのミシェル・ドゥルバール会長(社会党、上院議員、ダンケルク市長)は、「民主主義の重要な前進。今後メトロポールは住民生活に関わるますます大きな予算を扱うことになることを考えれば、なおさら正当な措置と言わねばならない。住民をその未来を決する決定権力へと近づけ、ひいては大都市における民主的文化の促進につながる。」と修正案を歓迎する共同声明を出している。

直接普通選挙とコミューンの代表者という二つの選出方法の併用に対しては、合憲性についての問題提起もされており(ティエリー・ブライヤール議員PRG)、今後、9月からの上院での審査に舞台を移し、引き続き激しい論戦が予想される。

2 「地域高等評議会Haut Conseil des Territoires (HCT)」創設の前倒し審査

政府案では3本目の法案に回されていた「地域高等評議会Haut Conseil des Territoires (HCT)」。地方公共団体に係る政府の政策、複数年の財政計画等についての諮問、地方公共団体の事業の実施状況の分析報告等を受ける機関として位置づけられ、国・地方政策協議の場として、対話重視のオランド分権改革の目玉の一つとも目されているものである。
今回の国民議会の第一読会では、同評議会を1本目の法案へと前倒しにする修正案が出され、可決された。
先のジャック・ペリサールAMF会長(UMP)の提案により、全仏州連合会ARF、全仏県連合会ADF、全仏メール会AMFも地域高等評議会の開催を要求できるとの規定も追加された。UMPなど野党には「屋上屋を重ねるもの」といった批判の声もあるが、同党のペリサール会長は、国・地方が一堂に会するこうした場について評価して見せた。

また、政府修正により地域高等評議会の下に「地方行政運営実態把握委員会observatoire de la gestion publique locale」の設置が追加。国・地方公共団体のほか社会保険料負担法人など種々の主体間で統計データ等を共有、効果的行政に結びつけることが狙いと説明されている。地域高等評議会や地方公共団体の要請により政策評価なども行う。構成員は国・地方の公務員である。

3 「グラン・パリ・メトロポール」ドラスティックになって復活

政府案に入っていたものの上院で削除されたパリ・メトロポールが、「グラン・パリ・メトロポールmétropole du Grand Paris」と名を改め、さらにその内容もよりドラスティックなものになって、国民議会で復活した。国民議会法制委員会提出議案によるもの。

具体的には、上院で否定された政府案では、パリ市や課税型コミューン間広域行政組織を構成メンバーとする「課税権のない」コミューン間広域行政組織(混成事務組合)であったが、今回の国民議会の案では、2016年1月1日、下記①~③のとおり「コミューンそのもの」を構成メンバーとした特別の地位を有する「課税型の」コミューン間広域行政組織として、(自動的に)設立されるとされている。
①パリ市
②小冠3県の全てのコミューン
③小冠3県以外のイル・ド・フランス州内の県のコミューンのうち、小冠3県内のコミューンの少なくとも一つが構成団体となっている広域行政組織に2014年12月31日時点において帰属しているコミューン。

そのほか、設置の日(2016年1月1日)時点において、構成コミューンの少なくとも一つが、パリ市街地連担区域unité urbaine de Paris内にあり、かつ上記②③に該当するコミューンと隣接している、全ての課税型コミューン間広域行政組織の構成コミューンは、グラン・パリ・メトロポールに含まれるとされている。なお、当該広域行政組織がそれを拒否した場合には、その構成コミューンのうち、パリ市街地連担区域unité urbaine de Paris内にあり、かつ上記②③に該当するコミューンと隣接しているもので、かつ2014年11月30日までにコミューン議会において承認の議決が得られたもののみが、グラン・パリ・メトロポールに加わることができるとされている。この場合、これらメトロポールに帰属することとなるコミューンは、それまで帰属していた課税型コミューン間広域行政組織を脱退することとなる。

政府案に比べ、グラン・パリ全体としての統合の度合いは遙かに高められたものと言うことが出来る。

グラン・パリ・メトロポール議会の議員は、その1/4はパリ市議会により指名され、残り3/4については、パリ以外の各コミューンに1人+人口3万を超える部分は3万を超えるごとに1人の定数が割り振られる、とされている。

グラン・パリ・メトロポールの役割は、住宅政策、環境政策、地域整備である。温暖化ガス排出量の削減やエネルギー効率の向上、再生エネルギーの活用等に関し、国の目標との整合をとりながら首都圏気候・エネルギー計画plan climat énergie métropolitainを策定すること、首都圏住環境整備プランplan métropolitain de l’habitat et de l’hébergementを策定するなど、特に政府案と変わりは無い。
他方、政府案で想定されていた交通政策は、引き続きイル・ド・フランス州の権限として残すこととされている。

パリ・グラン・メトロポールに係る財政制度は、18か月以内に出されるオルドナンスで明らかにされる。

社会党は「細分化されたイル・ド・フランスの組織の問題を解消するもの」として賛成した一方、野党のUMPやUDI、左派戦線は「二重行政を生む、官僚主義的化け物」と批判し反対。エコロジストや中道左派は棄権した。

4 上院の農村部拠点案を「地方均衡調整拠点pôle d’équilibre et de coordination territoriaux (PECT)」に修正

上院では、大都市偏重の批判を避けるため、農村部についても課税型コミューン間広域行政組織(コミューン共同体CC)間の共同体(混成事務組合)を導入すべく「農村部整備協働拠点pôle rural d’aménagement et de coopération」が追加修正されていたが、国民議会では、より柔軟な枠組みにしたうえで、名称も都市部・農村部の対立構造を避けるため「地方均衡調整拠点pôle d’équilibre et de coordination territoriaux (PECT)」と改称。
日常生活圏を単位として設立され、設立後18か月以内に、経済発展、環境、文化、社会の各分野についてエリア共通の計画を策定するものとされている。その際、構成コミューンのメール又は代表者から成る「メール会議conférence des maires」(国民議会で追加修正)の意見を聞かねばならないこととされた。

5 「リヨン・メトロポール」は確定

リヨン大都市共同体とローヌ県の一部を統合して新たに特別な地位の地方公共団体を創設する「リヨン・メトロポール」については、上院に引き続き、国民議会でも可決されたため、採択が確定した。ローヌ県から独立した全く新たなメトロポール(詳細はクレアパリブログ(11)参照)が、2015年1月1日に誕生する。
2012年末からジェラール・コンブ・リヨン市長(社会党)、ミシェル・メルシエ・ローヌ県議会議長(当時)(UDI)が党派を超えて画策してきたものが結実した形である。UMPと左派戦線は反対した。

6 「エックス・マルセイユ・プロヴァンス・メトロポール」も確定

これも上院議員でマルセイユ市長のジャン・クロード・ゴダン(UMP)の支持もあり既に上院で可決されていたもので、国民議会での可決により今回採択が確定。
2016年に6つのコミューン間広域行政組織に置き替わる形で、人口160万を擁する新たな1つの課税型コミューン間広域行政組織へと生まれ変わる。

7 「一般的なメトロポール」については修正

3大都市圏以外の一般的なメトロポールについては、その要件等について国民議会で再び修正が施された。
具体的には、政府案では人口50万を超える都市生活圏に所在する人口40万を超える全ての大都市共同体、都市圏共同体が自動的に「メトロポール」になるとされていたが、上院案ではこの都市生活圏の人口要件50万超を人口65万超へと引き上げ、対象を絞った上で、メトロポールになるか否かも任意とされていた。
国民議会ではこの人口要件について、基本的には上院のもの(65万超)を維持する一方、当該都市生活圏が州都に当たる場合には40万超に緩和することとし、かつこれらの要件を満たす場合には自動的にメトロポールとなるよう戻している。
これにより、上院案でモンペリエとブレストが新たに対象となった。

結局、メトロポールの要件に該当する都市は(現在既にサルコジ法の下で成立済みのニース・メトロポールに加え)、次のような変遷を辿ったことになる。

〔政   府   案〕(自動) ボルドー、グルノーブル、リール、ナント、レンヌ、ストラスブール、トゥルーズ、ルアン、
                                モンペリエ、トゥーロン
〔上   院   案〕(任意) ボルドー、グルノーブル、リール、ナント、レンヌ、ストラスブール、トゥルーズ、ルアン
〔国民議会案〕(自動) ボルドー、グルノーブル、リール、ナント、レンヌ、ストラスブール、トゥルーズ、ルアン、
                                モンペリエ、ブレスト

国民議会議員でオルレアン(サントル州都)市のセルジュ・グルアール市長(UMP)はサントル州にメトロポールが無いことを残念がるが、ルブランシュ大臣は、パリのメトロポールとサントル州の大都市共同体の相互補完性を指摘しつつ、「メトロポールになることが自己目的化されてはならない」と一蹴している。

8 その他 駐車違反の「罰金」の「料金」化、EPADESAの解散など

その他、これも既に上院で追加・可決されていたものであるが、駐車違反時の罰金(全国統一)を地域によって変化がつけられるよう、位置づけを「料金」に変更したり、パリについて(現在の一般道に加え)大規模幹線道路についても、通行や駐車の管理権限を警視総監からパリ市長に移譲したり(この移譲は政府が削除のための修正案を提出したが、パリの国民議会議員の党派を超えた団結(社会党、エコロジスト、UMP)の前に否決)、といった制度変更も、今回の1本目の分権法案で措置され、確定している。

また、デファンス・ビジネス地区の整備・改良を目的に、1958年創設の国公施設法人EPADが2010年に改組されて生まれたデファンス・セーヌ・アルシュ整備公施設法人EPADESAについて、任務は終わったとして解散させる修正案がエコロジストの議員等から提出され国民議会で可決された。EPADESAを巡っては、上院でも解散の議案が提出されていたが、政府の要請の前に取り下げられていたという経緯がある。前身のEPADはかつてサルコジ前大統領がトップを務め、EPADESAは2009年、サルコジ前大統領の息子がトップに就くことが取り沙汰された際、運営の透明性を巡ってマスコミをにぎわせていた。国民議会では可決されたものの、政府は必ずしも解散に乗り気ではないこともあり、秋の上院審議での難航が予想されている。

(パリ事務所長 黒瀬敏文)