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パリ事務所(クレア・パリ=CLAIR PARIS)は、日本の地方団体のフランスにおける共同窓口として、1990年10月に設置されました。

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ヴァルス首相の地方制度改革

コミューン統一選挙での政権与党社会党の敗退を受けて、オランド大統領は内閣改造に踏み切りました。
エロー前首相の後を受けたマニュエル・ヴァルス首相(前内務大臣)の所信表明演説が、昨日4月8日国民議会で行われました。地方制度についてもドラスティックな内容が含まれていますが、社会党最右派である同首相の主張は、前サルコジ大統領の主張を髣髴とさせます。それどころか、サルコジ改革として一旦改正法が成立し、それを社会党自身が否定・再改正した内容をも含むところであり、今後様々な議論を呼ぶことになりそうです。

所信表明演説においてヴァルス首相は、

「財政の自律を取り戻すには構造改革が必要。フランスはそうした改革、とりわけ、地方自治体が何層も輻輳する「ミルフィーユ」を改革する用意がある」
と述べた上で、次の4つのポイントを挙げています。

① フランス本土の州(現在22州)を半減
州は自ら協議により合併の提案ができることとする。提案がなされない場合には、2015年3月の県議会選挙、州議会選挙の後、新たな州の構成案を政府が法案の形で提案する。2017年1月1日までに確定する。

(注:オランド大統領の1月14日の記者会見でも州の削減に言及していました。なおサルコジ政権下ではあくまでも自主的合併を原則とし、諮問先のバラデュール委員会も州の再編案は(報道はされたものの)公式には示さず、それを受けた2010年12月10日法では、州間合併手続きを簡素化し、州内の県の議決はなくとも住民投票により合併を可能とする道を開いています。今般は、自主的提案が無い場合に政府の側から合併案を示すとしており、さらに一歩踏み込む内容といえます。)

② コミューン間広域連合組織の構成の刷新
コミューン間広域連合組織を2018年1月1日までに生活圏(bassin de vie)単位で再編する。

(注:生活圏はINSEEが定義する統計的概念で、フランス全土が1700弱の生活圏に区分されています。現在、広域連合組織は2600弱存在し、96%のコミューンがこれに加入していますが、サルコジ政権以来、コミューンの広域連合組織への加入の貫徹が進められ、遅れていた首都圏周辺においても2014年1月27日法によりメトロポールという特別な広域連合体が導入されることが決定されています。このように広域連合組織を通じた行政体制整備は、左右両政権を通じて徐々に進捗を見せてきました。サルコジの2010年12月10日法では、広域連合体は人口5000以上の規模を想定し、県単位で広域連合体計画を作って統合を進めることとされています。今般、生活圏単位での統合を表明した意味は、個々の広域連合体のさらなる規模拡大等による効率化を目指すものなのか等、今後その意図するところを確認する必要があるでしょう。)

③ 各種自治体の権限の明確化
(州・県の)一般権限条項は廃止する。つまり、州・県の権限は特定の列挙されたものに限定する。

(注:この点は、サルコジ大統領が2010年12月10日法により削除した一般権限条項を、オランド大統領が2014年1月27日法で復活させたばかり。同法では一般権限条項を残した上で、各主体が協議の場を設けることで共通分野の政策の効率化を図るというシナリオを描いていましたが、それとの整合性はどう説明されるのか注目されます。)

④ 県の将来のあり方について議論を開始
2021年を目途に県を廃止する。

注:これは古くて新しい問題です。近年の動きだけを見ても、2008年のジャック・アタリ(元ミッテラン大統領首席補佐官)からサルコジ大統領への報告書では「県の廃止」に言及していました。ただ、サルコジは即座に「県廃止は困難」と表明、それを受けた後継のバラデュール委員会は、県は残しつつ州と県の議員を同一人物が兼ねる「州県兼任議員制度」を提案し、実際この案の趣旨は2010年12月10日法で採用ました。県の存廃自体については、それまで規定の無かった県間の合併手続きをこの2010年法に定めています。しかしオランド政権に代わり、州県兼任議員制度は2013年5月17日法により、運用が開始される前に廃止においやられました。県についてオランド政権がどのように位置づけるかが注目されてきた訳ですが、今回のヴァルスの問題提起はそれを最もドラスティックな形で表現したものとも言えるでしょう。)


(パリ事務所長 黒瀬敏文)