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パリ事務所(クレア・パリ=CLAIR PARIS)は、日本の地方団体のフランスにおける共同窓口として、1990年10月に設置されました。

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コロナ禍で住民がパリを脱出 ~フランスの首都圏と地方の人口動態~

欧米諸国では、新型コロナウイルスの感染拡大防止対策として外出を制限する措置が一般的となった。フランスにおける全面的な外出制限はコンフィヌマン(confinement,「監禁」の意)と呼ばれ、3月17日の開始から5月11日の段階的解除開始まで約2か月間続き、その間、食品等の生活必需品の買い物や遠隔で行うことのできない診察・看護、必要最低限の運動等、限られた目的以外での外出は認められなかった。また、認められた外出ではあっても、その目的を明示した自署入りの証明書の携帯が求められ、不携帯者には罰金が科される事態にまで発展した。 

 

外出制限解除後の7月22日、フランス国立統計経済研究所(Institut national de la statistique et des études économiques、以下「Insee」)から、当該制限措置に端を発するパリ居住者(以下、「パリジャン」)の行動に関し興味深い調査レポートが発表された。携帯電話の位置情報を基としたこの調査レポートによると、外出制限期間中にパリ市内に居住、滞在した人は、外出制限前と比較して平均で451,000人も少なくなったとされる。そのうち半数は通勤、通学者等の非居住者であったとされるが、残り半数はパリを脱出したパリジャンであったとみられている[1]。パリジャンによるパリ脱出は、フランス国内において新型コロナウイルスの感染が急速に拡大し休校や一時休業の動きも広がる中、都心での過密な生活による感染リスクの増大や、狭いアパート内で窮屈な生活を長期間強いられることから生じるストレス過多を懸念した人々が、家族の家やセカンドハウスなどのあるパリ市外へ生活の拠点を一時的に移したことで起こった現象であり、その影響は、人口約220万人のパリジャンの10人に1人に及ぶ驚くべき結果であった。

5月11日の外出制限の段階的解除開始とともに、仕事や学業への復帰等を理由にパリへ帰還する大勢の人々の姿が報道されるなど、パリジャンの多くは生活の拠点を元に戻したようだ。しかし、国境規制や感染再拡大の動きもあり、外出制限解除後数か月が経った現在でも、パリの街にかつて程の人の営みは感じられない。フランスでは、豊かな生活環境を求めるフランス人の指向などから、首都圏への人口集中は既に終焉を迎え地方回帰の時代に移ったといわれているが、このコロナ禍が、情報通信技術の発展によりテレワークの可能性が広がっていることとも重なり、都市部住民の地方回帰を促す新たな潮流を生むかが注目される。 

日本では人口減少による経済成長の低下、労働力不足等が大きな問題となっているが、フランスでは、高い出生率に支えられた自然増や移民の流入等を要因とする社会増により人口の増加が続いている。Inseeの人口推計によると、2011年のフランスの人口は64,933,400人であったが、2016年には66,602,645人となり、率にして約2.6%の増加を記録した[2]。下記図1は、2017年におけるフランスの人口をレジオン(州)別に表したものであり、各州の人口を表1に記している。ここにあるとおり、首都圏であるイル・ド・フランス州の人口が約1,200万人と突出して多いが、それでも全体の20%弱にすぎず、他の州にも5~10%の人口が分散している(海外州を除く)様子が確認できる。よって、首都圏への人口集中は日本のそれほど高いものではない。

図1 表1
region2017

【出展】図1Insee,表1フランス:Insee,日本:国勢調査(H27)

また、2018年4月に民間会社より発表された首都パリを中心とするイル・ド・フランス州の住民(2,227人)を対象とした調査によると、彼らのほぼ半数が、将来的にイル・ド・フランスを離れることを考え、また4人に1人は5年以内にそれを実現することを計画しているとの結果が出された[3]。同調査では、多すぎる人口や騒音等によって生活がストレスに満ちていること、不動産経費をはじめとする生活費が高すぎること、大気や水等の汚染が広がっていることの3点をその主要因として取り上げている。このように、フランス人は、生活環境に質の高さを求める傾向があり、その実現が難しい大都市より、むしろその郊外にある中小規模の都市で暮らすことを望んでいるとされる。実際、首都パリ市の人口は、家族向け中規模住宅の不足や不動産価格の高騰に伴う若年世帯の減少、観光客の滞在のみを対象としたAirbnbの増加などが原因となって減少傾向にある。

では、地方に住む人々は増えているのだろうか。近年、地方の人口増加を牽引したのは、「メトロポール」(課税権を持つコミューン間広域行政組織(以下、「EPCI」)のうち、人口40万人以上などの要件を満たす大規模なもので、2019年現在、パリ、マルセイユ、リヨン等の大都市をはじめフランス国内に22か所存在)と呼ばれる地域の中核都市圏であった。下記の図2は、1999年及び2017年におけるフランスの人口をEPCI別に表しており、図中の円が大きくなるほど人口も多くなることを示している。地名の記載がある箇所は主なメトロポールとなるが、各メトロポールにおいて人口が増加していることがわかる。また、レンヌ、ナント、トゥールーズの周辺で主に見られるとおり、当該メトロポールのみならずその近郊地域においても人口が増加している状況を確認することができる。

図2 1989年 2017年
pop1990 pop2017

【出展】Insee

実は、パリ市の人口は減少しているものの、グランパリメトロポール(首都パリを含むメトロポール)にまで視野を広げれば人口の増加は続いており、2011-2016年における同メトロポールの人口は年平均+0.3%の水準で増加した。これは自然増超過によりもたらされた結果であった(自然増1.0、社会増-0.7)[4]。一方、その他のメトロポールでは、グランパリメトロポールを超える水準で増加しているところが多い。その増加率の高い順に、フランス南部のモンペリエ=メディテラネメトロポール+1.7%(うち社会増+1.0)、南西部のボルドーメトロポール+1.5%(うち社会増+1.0)、西部のナントメトロポール+1.5%(うち社会増+0.9)、同じく西部のレンヌメトロポール+1.4%(うち社会増+0.7)、再び南西部のトゥールーズメトロポール+1.3%(うち社会増+0.6)、南東部のリヨンメトロポール+1.1%(うち社会増+0.2)などとなっているが、これらの地域では、人口の自然増に加え、社会増も大きい点が注目される。

また、2017年に行われた直近の国勢調査の結果からも、フランスの人口が首都圏から地方へと流れる潮流の一端をうかがい知ることができる。同調査によるEPCI間の人口移動分析によると、グランパリメトロポールと他のEPCI間の人口移動は、グランパリメトロポールから他EPCIへの56,170人の転出超過であった[5]。以下の表2は、上記のうちグランパリメトロポールと人口増加率の高いメトロポールの間における転入出の差を表したものであるが、レンヌメトロポールを除き地方メトロポールへの転入超過となっていることが注目に値する[6]

表2 (単位:人)

地方→首都圏

A

首都圏→地方

B

差(B-A

モンペリエ  → グランパリ

2,003

グランパリ → モンペリエ

2,376

373

ボルドー   → グランパリ

3,320

グランパリ → ボルドー

5,915

2,595

ナント     → グランパリ

2,698

グランパリ → ナント

4,949

2,251

レンヌ     → グランパリ

2,732

グランパリ → レンヌ

2,452

-280

トゥールーズ → グランパリ

3,626

グランパリ → トゥールーズ

3,955

329

リヨン     → グランパリ

5,836

グランパリ → リヨン

6,763

927

【出展】Inseeの国勢調査から筆者作成

このメトロポールの人口増加は、首都圏からの流入のみを要因としているものではない。図3は、上記の人口増加率上位6メトロポールの2017年における居住者の主要な流れを矢印の向きにより表したものであるが、各メトロポールの周辺地域からメトロポールへと向かう放射状の動きが確認できる。これは各メトロポールが周辺都市からも人口を取り込んでいる様子を表している。

図3 モンペリエ ボルドー
montp h bordeaux h
ナント レンヌ
nantes h rennes h
トゥールーズ リヨン
toulouse lyon h

【出展】Insee

 一方、国全体としては人口が増加しているフランスにおいても、恒常的に人口が減少している地域は存在する。下記の図4は、各期間中の人口の年平均変動率の推移をEPCIのレベルで表しており、赤色が濃いほど人口増加率が高く、青色が濃いほど人口減少率が高いことが示されている。これにより、主なメトロポールとその周辺では人口の増加が活発なものの、国土の北東部から国土の中央を経て南西部にまで横たわる対角線上の地域において人口の減少が進んでいる状況を見ることができる。特に、国土中央の山岳地帯ではこの特徴が顕著である。これらの地域は、人口の低密度地域ともおおよそ重なり、フランスではこの地域を「空白の対角線(diagonale aride)」と呼んでいる。当該地域では、農地や森林地帯の割合が高く、農業の効率化等の影響により労働の機会が失われてきたこと、高齢化の進展や出生率の低下等の要因により、人口の減少が続いているものと考えられている。

図4 1975-1982 1982-1990 1990-1999
1975 82 1982 90 1990 99
1999-2007 2007-2012 2012-2017
1999 2007 2007 2012 2012 2017

【出展】Insee 

ここまで見たとおり、フランスでは首都圏から地方への人の流れは確認されるものの、地方においては人を惹きつける都市とそうではない都市との格差が広がっている。かつて、政治経済の中心が過度にパリへ集中していたフランスでは、パリに対抗できる地方都市の育成が進められてきた。また、EU統合後は、ヨーロッパ規模で進む都市間競争の激化に対応するため、複数の都市地域の協力と連携により経済、交通、教育等の発展を目指すメトロポールの創造、強化に力が注がれた。このメトロポール政策により大都市への人やモノの集積が促され、それらは地域の成長を牽引する原動力となったが、一方で、都市の汚染、交通渋滞、貧富の格差等の生活環境の悪化や都市のスプロールを生じさせることとなった。

また一連の動きは、フランスでは「中規模都市」と分類される人口2~10万人程度の都市にも影響を与えている。従来、中規模都市は地方の産業活動と行政サービスの中心地として機能し、地域の雇用を支え、住民に様々な行政サービスを提供してきたが、近年の経済・人口成長はメトロポールやその周辺へ集中し、一方で、司法、軍事、病院等の行政施設の再編が進められてきた。その結果、メトロポール近郊のMontauban (トゥールーズ近郊(人口約6万人))やBourgoin-Jallieu(リヨン近郊(人口約2.5万人))、温暖な気候が好まれ近年移住者が増加している南フランスのAgde(人口約3万人)、Béziers(人口約7.5万人)のような地中海沿岸の都市[7]、また、大都市から遠くに位置するが故に従来の都市機能を残すことができたLe Puy-en-Velay(人口約2万人)[8]など、一部の地域ではその勢いが維持されているものの、それらの地理的恩恵を受けられない中規模都市では、人口や雇用の減少、中心市街の衰退等の問題が指摘されている。このような事態を受け、国は、中規模都市が国土の発展に必要不可欠の存在であるとの認識の基、中規模都市の活性化対策に本腰を入れ始めた。2017年12月には「Action Couer de Ville(アクション・クール・ド・ヴィル)」と呼ばれる中規模都市の中心市街地活性化事業を開始し、今後5年間で50億ユーロもの公的資金を導入して、中規模都市の生活状況の改善と、国土発展の原動力としての役割強化を図っていくこととしている。コロナ禍にあって更なる変化の兆しを見せる人口動態と、大都市の育成から中規模都市の支援へ、都市政策に変化が見えつつあるフランスの今後の施策展開を注視したい。

 

 

ここまで見たとおり、フランスでは首都圏から地方への人の流れは確認されるものの、地方においては人を惹きつける都市とそうではない都市との格差が広がっている。かつて、政治経済の中心が過度にパリへ集中していたフランスでは、パリに対抗できる地方都市の育成が進められてきた。また、EU統合後は、ヨーロッパ規模で進む都市間競争の激化に対応するため、複数の都市地域の協力と連携により経済、交通、教育等の発展を目指すメトロポールの創造、強化に力が注がれた。このメトロポール政策により大都市への人やモノの集積が促され、それらは地域の成長を牽引する原動力となったが、一方で、都市の汚染、交通渋滞、貧富の格差等の生活環境の悪化や都市のスプロールを生じさせることとなった。

また一連の動きは、フランスでは「中規模都市」と分類される210万人程度の都市にも影響を与えている。従来、中規模都市は地方の産業活動と行政サービスの中心地として機能し、地域の雇用を支え、住民に様々な行政サービスを提供してきたが、近年の経済・人口成長はメトロポールやその周辺へ集中し、一方で、司法、軍事、病院等の行政施設の再編が進められてきた。その結果、メトロポール近郊のMontauban (トゥールーズ近郊(人口約6万人))Bourgoin-Jallieu(リヨン近郊(人口約2.5万人))、温暖な気候が好まれ近年移住者が増加している南フランスのAgde(人口約3万人)Béziers(人口約7.5万人)のような地中海沿岸の都市[1]、また、大都市から遠くに位置するが故に従来の都市機能を残すことができたLe Puy-en-Velay(人口約2万人)[2]など、一部の地域ではその勢いが維持されている。一方、それらの地理的恩恵を受けられない中規模都市では、人口や雇用の減少、中心市街の衰退等の問題が指摘されている。このような事態を受け、国は、中規模都市が国土の発展に必要不可欠の存在であるとの認識の基、中規模都市の活性化対策に本腰を入れ始めた。201712月には「Action Couer de Ville(アクション・クール・ド・ヴィル)」と呼ばれる中規模都市の中心市街地活性化事業を開始し、今後5年間で50億ユーロもの公的資金を導入して、中規模都市の生活状況の改善と、国土発展の原動力としての役割強化を図っていくこととしている。コロナ禍にあって更なる変化の兆しを見せる人口動態と、大都市の育成から中規模都市の支援へ、都市政策に変化が見えつつあるフランスの今後の施策展開を注視したい。