ワクチンバスの次は、ワクチンパス!?大規模イベント復活のカギとなるか
フランスでは、6月9日から「衛生パス(Pass sanitaire)」の運用が開始されます。
衛生パスとは、ワクチン接種完了・PCR検査陰性(48時間以内)・感染後の抗体保有(6か月以内)の証明の3種類を言い、接種情報や検査結果はそれぞれ専用のポータルサイトSI-DEPポータル(※1)、健康保険ポータル(※2)からQRコード付きの証明書が発行され、紙媒体のままか、政府のコロナ対策スマートフォンアプリ「TousAntiCovid」で利用できます。
感染拡大リスクが高い活動の再開を支援するのが狙いで、スタジアムやコンサートホールなど、1,000人を超える人々が集まる場所では衛生パスを提示する必要があり、5月30日から6月13日まで開催されているテニスの全仏オープンでも早速採用されています。
また、外国人観光客受け入れにも利用されます。
フランス国内の新型コロナウイルスの感染状況は改善傾向が続いており、5月19日から、飲食店のテラス席や、すべての商店、映画館・劇場・美術館等の営業が再開されています。6月9日からさらに規制が緩和され、飲食店の店内での営業が再開されるほか、映画館や美術館、スタジアムなどの最大収容人数が緩和されます。6月30日にはほぼすべての施設において感染対策をとりつつ通常営業が再開される予定です。飲食店などではワクチンパスの使用は認められていません。
ワクチン接種者数も順調に増加しており、6月5日時点で1回目のワクチン接種が終了した人の数が約2,784万人(人口の41.5%)に達し、1,365万人(20.4%)が2回目の接種を終えました。大規模イベントなどの参加の条件として用いられる衛生パスの導入が、ワクチン接種の加速の要因の一つになっているとも考えられています。
同様の仕組みはEUにおいても7月1日から導入されます。検討段階では「デジタルグリーンパス(Digital Green Certificate)」という名称で呼ばれていましたが、正式名は「EU Digital COVID Certificate(EUDCC)」となりました。所持者がEU加盟国などを自由に移動できる体制を整えて、観光業の回復などを促すことが狙いです。
他にも、国際航空運送協会(IATA)では海外旅行者が接種情報や検査結果などの健康情報を管理出来るアプリ「トラベルパス(Travel Pass)」の試験運用を開始しており、日本の航空会社も参加しています。
現在、日本国内においても政府がワクチン接種証明書の発行について検討を行っており、市町村において紙媒体で証明書を発行することが想定されていますが、EUを含む諸外国での証明書のデジタル化の流れを踏まえた新たな仕組みの導入も必要になるかもしれません。
例えば、厚生労働省が提供するスマートフォン向け接触確認アプリ「COCOA」でPCR検査結果やワクチン接種証明が表示できるようになれば、アプリの利用も増えて感染防止対策が促進されるのではないでしょうか。
(※1)SI-DEPポータルとは、フランス国内で行われたRT-PCR検査結果の証明書をオンラインで簡単に取得することが出来るプラットフォームです。システムは政府によって管理されており、検査結果は医療従事者によってオンラインでデータベースに登録されます。検査結果を表示するためには、検査時に登録したEメールやSMSに送られてきたリンクからアクセスするか、France Connectを利用してポータルにアクセスします。France Connectとは、所得税の申告やパスポートの申請など900以上のオンラインサービスへの接続を安全かつ簡単にするために政府が提供している認証方法で、フランスの社会保障番号を持っている人が利用できます。
(※2)健康保険ポータルとは、フランス国内で行われた新型コロナウィルスワクチン接種の証明書をオンラインで取得することが出来るプラットフォームです。国民健康保険基金(Cnam)が管理しており、フランスの国民健康保険の受給者が利用出来ます。こちらもアクセス認証にはFrance Connectが使われています。
ワクチン接種の結果自体は、Cnamと政府によって管理されているオンラインシステム「Vaccin Covid」のデータベースに登録されています。このシステムはワクチン接種を行う医療従事者のみアクセス出来ますが、収集されたデータは法令に基づき、健康保険ポータルでの接種証明書の取得や、接種に関する統計情報などに利用されます。
写真:仏政府が提供するアプリ「TousAntiCovid」で衛生パスの表示(二次元コードと氏名はモザイク処理)